2013年10月25日

道迷い

 天気は快晴、展望も上々、体調はばっちり。
 あなたは快調に尾根道を歩いている。
 
 あなたは休憩所に差し掛かった。
 ベンチやその周りには、大勢の人が疲れた顔をして休んでいる。

 あなたは、駅を通過する特急列車の気分だ。
 悠々と、誇らしげに休憩所を通り過ぎる。

 しかし、どうも道の様子がおかしい。
 一応、踏み跡はついているのだが、どうもしっくり来ない。
 あなたは道に迷ったのだ。


 実は、これは、高尾評論自身が犯した道迷いだ。

 高尾評論が高尾の山歩きを始め、間もない時だ。
 場所は北高尾山稜、時期は11月下旬の3連休、紅葉がぼちぼち始まった頃だ。

 高尾評論はひとり、陣馬山から陣馬高尾縦走路を経て、堂所山から北高尾山稜に入った。
 時刻は12時過ぎだ。
 日は短いとはいえ、ちゃちな地図を見る限りは八王子城跡まで十分行ける時刻だと踏んだのだ。

 関場峠を順調に過ぎ、登り返しも気持ちよく進む。
 その先にちょっとしたピークがあり、ベンチを中心に20人近くが座っていた。
 静かな北高尾とは言え、さすがに紅葉の時期なので、こんなに人が出ているのだろう。

 ピークを左に折れ、緩い斜面を下って行く。
 踏み跡は充分にあり、枝にはピンクのリボンも結んである。

 何だか地面が柔らかくなった気がした。
 それでも、踏み跡はしっかりしているし、緩やかな尾根は続いている。
 
 そのうち、斜度はあまりなくても、道が崩れやすくなってきた。
 他に道がないか、慎重に見極めながら尾根道を下って行く。

 地図を開いてみると、どうみても北高尾山稜の縦走コースではない。
 しかし、もう元の場所に戻り、北高尾山稜を歩く気力はない。

 高圧線の下に出た。
 ちょっとした広場になっている。
 この道で大丈夫だろう。

 どんどん高度が下げる。
 しかし、この道のもろさは尋常ではないと思い始めた。
 それでも踏み跡を選び、慎重に下って行った。
 
 やがて、展望の良い所に出た。
 谷を隔てた向こうには、鉄筋の建物が1軒だけある。
 あれはくぬぎ沢橋にある老人ホームだ。
(現在は取り壊され、跡形もない)
 陣馬高原下までのバスで何度も通っているところなので、間違いない。
 あそこまでの標高差は70〜80mくらいだろうか。
 
 しかし、この先、どう見ても、道らしきものが見つからない。
 強引に下っても、バス道路は谷の反対側だ。
 かなりの水量を持つ案下川を渡渉するかもしれない。

 高尾評論はやっと後戻りをする決意をする。
 ここまで、10回以上、止まっては考え、また進むことを繰り返していた。
 そのため、道迷いを起こしたと思われる場所から1時間以上が経過していた。
 
 気を取り直し、元来た道をがんがん登ることにする。
 帰りは30分で元の場所に戻ってきた。
 
 ここにはもう誰もいなかった。
 ちゃんと見ると三本松山と書かれていて、八王子城跡への標識もあるではないか。
 先ほどはちょうど、ハイカーが道をふさぐような形で座り込んでいたため、高尾評論は何の確認もせずに道なき道を選んでしまったのだ。

 気を取り直して、高尾評論は八王子城跡へ向かい、北高尾山稜を歩きだした。
 高尾評論の第2のミスは、この先、一度も地図を見なかったことだ。
 その前にだいたいの地図は頭に入っていたため、今度こそ標識を見落とさないようにいけば、八王子城跡にたどり着けると思ったのだ。
 
 それなりに急いではいるが、北高尾山稜は、陣馬高尾縦走路のように平坦ではない。
 東に延々と続く尾根は、ピークを登り返しても、また次のピークが目の前に立ちはだかる。
 
 気持ちだけ急いでも、足がついてきてくれる訳ではない。
 だんだんスピードが落ちてくる。

 八王子城跡の山頂と思われるところに着いたときには、かなり暗くなってきた。
 東京の夜景が見え始めた。
 懐中電灯は持っていない。

 後は下りだけだ。
 高尾評論は走るように石段を下った。

 そのとたん、目の前の景色が急変した。
 足を木の根か何かに引っ掛けたのだ。
 そして、石段の鋭角の突起に左肩を思い切りぶつけた。

 数分間だと思う。
 声も出ないほどの激痛が続き、道のど真ん中で動けないでいた。

 石段の地面は冷たく、その上を吹く風は冷たい。
 このままではまずい。
 高尾評論は右手で左肩を抑えながら、ほとんど暗くなった道を下った。

 八王子城跡の管理事務所に着いたときは、完全に暗くなっていた。

 その足で、総合病院の救急外来へ直行し、骨に異常がないことを確認した。

 
 道迷いは、分岐点で良く起こるのは分かっているが、人や車がいると、どうしてもそちらの方は見ないで進むことになる。

 高尾山域で道迷いをしたという情報が一番多いのは、明王峠だ。
 陣馬山から陣馬高尾縦走路を景信山へ向かうつもりが、相模湖駅の方へ降りてしまうのだ。
 陣馬高尾縦走路は、斜め左の杉林の暗い感じがする方向へ進むのが正解だ。
 ただ、トイレに沿った明るい階段を下りたくなってしまうのだ。

 次に多いのが小仏峠で、景信山から来て、小仏バス停に下るケースが多い。
 陣馬高尾縦走路を行くには、廃屋の右側を通り、再び登るのが正解だ。

 その次に多いのが景信山頂で、やはり小仏バス停に下ってしまう。
 陣馬高尾縦走路を高尾山方面に行くには、直角に右折し、まず1軒目の茶屋の軒先の左を通り、次に2軒目の茶屋の右を通るのが正解だ。


 それから、よく言われることだが、迷ったら、又は迷ったようだと思ったら、とにかく引き返すことだ。
 たとえ上り坂でも、戻りに要する時間は思ったより短い。
 











posted by 高尾評論 at 19:52| 東京 ☁| Comment(2) | 予防安全予防衛生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月07日

滑落現場を見た

 当人の個人情報にも関わるため、場所と日にちは特定しない。

 高尾評論のすぐ前を下っていた人が、滑落事故を起こした。
 夏山のごく一般的なコースでの出来事だ。
 
 中年男性がふたりで下山していた。
 滑落事故を起こした人は、後ろの人だ。
 その人は、最初からおっかなびっくり下っていた。
 登山道がほんの少し急な勾配になると、体が後傾となり、スピードが落ちる。
 前の人は、後ろの人の歩きを意識していないようで、勾配に関係なく、一定の速度でどんどん下って行く。
 その結果、後ろの人は、勾配が緩くなると、速度を上げ、何とか前の人に追いつこうとする。

 本当は、不慣れな人と一緒に山歩きをするときは、不慣れな人を先に歩かせ、その人のペースで歩くべきだ。
 しかし、実際に、慣れている人と慣れていない人の技量の差が大きい場合、慣れている人が先頭を切って歩き、適当な場所で慣れない人を待っているというケースがほとんどだ。
 慣れている人はペースを乱されて、いらいらするから先に行き、慣れていない人は自分の下手な歩き方を見られたくないから後ろを歩く。

 だが、これが山仲間のやる事かと言うと、大いに疑問だ。
 慣れている人は、この際ゆっくり歩いて慣れていない人の歩き方を観察し、ついでに自分の歩き方もチェックする。
 慣れていない人は、恥ずかしがらずに自分の歩き方の悪い所を指摘してもらい、修正すべきものは修正する。
 こうでもしないと、いつまでたってもお互いの距離は開くばかりだ。


 道の傾斜がやや急になり、少しカーブし、なおかつそれまで谷側に生えていた草がなくなる所に差し掛かる前のことだ。
 後ろを歩いていた人は、へっぴり腰になり、手の動きも止まった。
 その場所はまだ、傾斜が緩く、直線で道幅も広かった。
 だが、その数歩先の急で登山道が細くなっている所に備え、前もって怖がる準備をしていたのだ。
 
 ちょうど急な所に入ったその時、案の定、その中年の男性は、後ろにゆっくりと滑った。
 ここまでは、高尾評論でも想定内の出来事だった。

 中年男性の体は尻餅をついたまま、やや急になった道を滑り出した。
 高尾評論は、中年男性が手を付いてブレーキをかけるのだと思っていた。
 
 しかしその後、高尾評論の想定外の事が起きた。

 中年男性は、手を降ろしたまま体に密着し、体も伸ばしきったままだ。
 そして道を外れ、谷側に向かって、滑落し始めた。
 谷側といっても、普通の樹林帯で、大小の木や草が生えている。
 傾斜は45度もない。
 少し手を自由にさせていれば、いくらでも掴むものはある。
 中年男性の滑落するスピードはどんどん速くなる。
 中年男性は、体を硬直させたまま、斜面を滑り続けた。
 ちょうど、ウォータースライダーで滑っている姿勢そのものだった。

 幸いなことに、ヘヤピンカーブを描いて回ってきた登山道がその7〜8m下にあった。
 それまで前を歩いていた中年男性の通路をふさぐ形で、何とか止まることができた。

 止まってから数秒後、滑落した中年男性は、我に返り、初めて手を使って起き上がった。
 幸い見たところ、大きい怪我はなさそうだ。
「いやあ、油断しすぎた」
 滑落した人はこう弁解した。
「本当だよ。ちゃんと足元見て、注意しないと」
 前を歩いていた中年男性は、滑落時点を見ていないのに、こう言った。

 あれは断じて不注意ではない。
 明らかに怖がりすぎて後傾になって滑り、更に体が硬直して手が動かなかったためだ。
 そして、滑り始めてからも、体の硬直は取れず、運命に従って、ただただ滑落していったのだ。
 
 確かに足元をよく見て、1歩ずつ丁寧に歩くことは、安全上、大事なことだ。
 しかし、必要以上に怖がると、体のバランスを崩し、却って滑ったり、転倒することになる。
 さらに体が硬直していると、その後の動作も取れなくなる。
 
 怖がっている人に、怖がるなと言うのは酷かもしれない。
 しかし、恐怖が恐怖を呼ぶような悪循環は断ち切らなければならない。

 とにかく、基本姿勢を保つことだ。
 基本の基本は、どんな場合でも、骨盤から頭まで伸びる線を、地球の軸と1本化することだ。
 そのほかの事は、他のネットを見ても、本屋で立ち読みをしても、すぐにたくさん出てくるだろう。

 とは言え、いざその場に立つと、そんなことはすべて忘れてしまう。
 というか、そんな姿勢のことなんか、どうでも良くなってしまうこともある。

 しかし、基本姿勢は安全上、一番大事だ。
 1歩1歩、決して急がず、自分が納得した上で、丁寧に歩くことだ。
 自分で怖いと思ったら、まずは立ち止まる勇気を持つことだ。
 そして、自分の姿勢、周りの地形、障害物がどこにあるかを見極め、自分の進むルートを冷静に判断する勇気を持つことだ。
 
 高尾評論が今まで滑落現場を見たのはこの1件だけだ。
 滑落は皆このようにして起こるものではない。
 怖がることで滑落するのは、例外中の例外だったかもしれない。

 それでも、この報告が、山歩きの中で、何らかの安全につながって欲しいと思う。







posted by 高尾評論 at 19:49| 東京 ☁| Comment(0) | 予防安全予防衛生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月21日

槍ヶ岳落雷時の山歩き

 8月18日土曜日、槍ヶ岳の落雷で、1名が亡くなられ、1名が重傷を負った。
 ちょうどその時、高尾評論も近くを歩いていたため、報告をする。

 朝7時に上高地に到着。
 快晴、無風。
 明日中に自宅に帰るため、槍ヶ岳にするか、奥穂高にするか、ここで決める必要があった。
 インフォメーションセンターの登山相談所で、今日の天候の様子を聞く。
 「今、上の方は少しガスっているが、これから晴れるだろう。午前中は持ちそうだ」
 思ったよりも天気がよさそうなので、岳沢経由で奥穂に行くことにする。
 このコースのネックは、岳沢小屋から穂高岳山荘まで、標準タイムで6時間半、山小屋がないことだ。

 9時。岳沢小屋。
 快晴、無風。
 奥穂から西穂の稜線、御岳山、霞沢岳が見渡せる。

 10時40分。岳沢パノラマ。
 少しガスが出てくる。

 11時20分。紀美子平。
 稜線はほぼガスっているが、前穂がたまに見える。
 前穂の往復に出発。

 11時50分。前穂山頂。
 何も見えず、すぐに下山。

 12時ちょうど
 雨が当たりだす。

 12時10分。
 東鎌尾根で落雷事故。重傷1名。

 この時、前穂下りでは、わずかに雷鳴が聞こえただけ。

 12時20分。紀美子平。
 雨が強くなる。
 雷鳴は弱いまま。
 奥穂高を越えて穂高岳山荘まで行くか、岳沢小屋に戻るか迷ったが、雨だけなら大したことないと思い、吊尾根を歩き始める。
 他の登山者も、大して気にしない様子で歩き続けている。

 13時。最低のコル。
 槍の穂先で落雷事故。1名が亡くなられる。
 ここでは、稲光は2回あっただけ。
 雷鳴は聞こえるが、事故のあった北方の槍ヶ岳方面ではなく、奥穂から西穂にかけての稜線から聞こえていた。
 吊尾根はすべて岩場の尾根で、雷を避ける場所がまったくない。
 大雨で視界が悪く、岩が滑りやすくなり、ペースが落ちる。
 雷の恐怖はさほどない。

 14時。
 雷雨が上がり、ガスも切れだす。

 14時40分。奥穂高岳山頂。
 遠くは見えないが、槍、西穂は見える。
 ジャンダルムの上にも人が立っている。



穂高岳山荘にて
 西穂からジャンダルムを越えて来たグループと相部屋になる。
 ヒョウが降ったが、雷は遠鳴りだったとのこと。
 夕食も、翌日の朝食時も、槍ヶ岳の落雷事故の話題は出なかった。

順調に下山。

槍ヶ岳落雷事故のことを知ったのは、翌8月20日だった。

落雷事故は、高尾評論が歩いていた場所から直線距離で5〜6qしか離れていなかった。
陣馬山と景信山との距離ぐらいである。
この間に、片方では大事故が起き、片方では落雷の恐怖もあまり感じなかった。
雷雨の時間が早かったため、奥穂高以外でもまだ尾根筋を歩いている人も多かったと思う。

前日の予報では、昼から雷雨の可能性が高いと言っていた。

上高地で天気が思わしくなかったら。、高尾評論ではより難度が低い槍沢経由で槍ヶ岳に向かっていた。

自分自身への反省の意味も含め、報告する。
posted by 高尾評論 at 21:06| 東京 ☀| Comment(3) | 予防安全予防衛生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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