2013年07月05日

世界遺産登録後の富士登山

世界遺産になったことで、富士登山客がどのくらい増えるかどうか、高尾評論には分からない。
 ただ、今まで、時間とお金とほんのわずかな体力があれば富士山に登れると思っている人にとっては、敷居が高くなった事だけは確かだ。
 今シーズンから入山料を試行的に徴収するそうだし、将来は入山規制も考えているようだ。

 そんな中で、なるべく環境にも身体にも負担を掛けず、安全に登山するにはどうしたらいいか。ある程度のリスクは背負って登るのだから、山行の最中はなるべく苦痛なく、楽しく、いい思い出の残るものにしたい。

1.夜行登山を止める
 山は夜登るものではない。
 しかし、富士山登山者の過半数が夜行登山をしている現実がある。

 懐中電灯で足元だけを照らしていると、分岐点が分からず、大きく道を間違える恐れがある。
 今度は遠くばかりを照らすと、足元の浮石に気づかず、つまずいて捻挫をしたり、その石を落したりする。
 また、落石があっても、どこから落ちてくるのか分からず、逃げそこなうこともある。
 大勢の人が登っているからといって安心してはいけない。
 人が多いほど、道迷いの確率は下がるかも知れないが、人工落石を受ける確率は上がる。

 それに、夜の富士山は、真夏でも恐ろしく寒い。
 止まると寒さが身に染みるので、無理をして歩き続けることもある。

 夜は山小屋に泊まり、日の出まで小屋に留まることだ。
 それが嫌なら、純粋日帰り登山をするしかない。


2.天候、体調の悪い日は止める
 山の鉄則だ。
 特に富士山は、眺望が売り物だから、霧の所を延々と歩く意味はない。
 高山の雨の強さ、特に雷の怖さは、受けてみないと分からないだろう。
 富士山の天気で注意するのは、天気以上に風だ。
 強風注意報が出ている時、登り道で無風状態でも、頂上に上がると急に風が吹き付けることがある。
 いくら快晴でも、富士登山のハイライト、お鉢巡りをすることはできなくなる。
 
 悪天候、悪体調のリスクを最小限にするには、出発直前まで、行くべきかやめるべきかの最終判断を保留しておくことだ。
 5合目に着いても、歩きだした後でも、天気と体調が悪ければ、すぐに引き返すべきだ。

 その点は、高尾あたりに登るのと同じ感覚でいい。
 ただ、荷造りだけは、前日までに終わらせておきたい。
 ドタキャンした後、気まずくなるような相手なら、最初から一緒に登る計画を立てないことだ。

 今後、富士山の登山客数規制で、登山日を予め登録させ、その人たちだけを登らせる案がある。
 そうなったら高尾評論は、富士登山を躊躇なく放棄する。
 何日も前に予定日を決められ、変更ができないようなものは、登山とは言えない。
 登山とは、その瞬間の山の状態、天候、体調を自分で感じ、自分の判断で最適な計画を立て、山に登ってからも臨機応変に変えられるものだと、高尾評論は思っている。


3.頂上でのご来光をあきらめる
 どうしても頂上でのご来光を拝むのなら、頂上の山小屋に泊まるしかない。
 ただ、吉田口、須走口では、ほとんどの山小屋からご来光を拝める。
 5合目で迎えるご来光だって立派なものだ。
 それに富士山の魅力はご来光だけではない。


4.純粋日帰りを考える
 これを言うと、怒られそうだが、敢えて言うことにする。
 富士山中の滞在時間が短ければ、登山者ひとり当たりの環境への負担は少ないのは確かだ。
 滞在時間が短ければ、排泄物も少なくて済む。
 登山道をちょっと外れて休憩すれば、山は壊れるので、休憩箇所も少ないほど良い。
 既に山小屋は満杯の状態だし、増設は簡単にはできないだろうから、宿泊は初心者や高齢者に譲る。

 ただ体力と技術について、確固たる実績や裏付けがないと、純粋日帰りはできないことは確かだ。
 
 
5.お鉢巡りをする
 吉田、須走、御殿場、富士宮の4登山道を上がった場所は、いずれも「頂上」という名前がついている。
 しかしこの「頂上」は、外輪山の一角にすぎない。
 ここまでの道中はいわば、富士登山の前座であり、外輪山を一周するお鉢巡りこそ、富士登山の真打だと、高尾評論は思う。
 天気のいい日、お鉢巡りをすると、伊豆、三浦、房総半島から、日光、上信越、3アルプスまですべて見ることができる。
 尾根自体のスケールは、北アルプスや南アルプスの主稜に負けるが、展望、特に遠望に関しては、日本一のスケールを誇るスカイラインだと思う。

 ただ、登山者のほとんどは、各登山口の頂上で引き返している。
 時間がないのか、体力が持たなかったのか分からないが、実にもったいないことだ。
 せっかく富士登山をするのなら、ぜひお鉢巡りを計画に入れ、その分時間と体力とに余裕を持って登ってほしい。

 お鉢巡りのまわり方としては、反時計回りが楽だろう。
 一番の急勾配、剣ヶ峰から富士宮口頂上までが下りとして使える。
 ここの下りが怖いという人もいるが、下りの基本を押さえていれば、なんでもない勾配だ。
 お鉢の北西側、つまり吉田口、須走口頂上から剣ヶ峰までは比較的空いていて、ここで大休止や昼食を取ればいいと思う。


6.剣ヶ峰登頂をあきらめる
 剣ヶ峰は富士山の中の最高峰、日本最高地点だ。
 ここに登らず何とすると言うことで、最近は写真撮影待ちの人で大混雑だ。
 剣ヶ峰は、外輪山の一角なのだが、お鉢巡りの道からほんのちょっとずれており、シーズン中はその分岐点からずらっと並んでいる。
 日本最高地点に立ちたい気持ちは分かるが、貴重な登山時間の何分の一かをここで費やし、証拠写真を撮る意味はどのくらいあるのか。
 展望を楽しむなら、お鉢巡りを一周することで十分目的は達せられたはずだ。
 剣ヶ峰を出発すれば、あとは下りだけだが、その下りは標高差が千数百mある。
 途中で夕立や日没に会わないよう、適当に見切りをつけることにしよう。
 剣ヶ峰登頂は、一生に一度でいいのではないか。


7.何か嫌な事があれば、すぐに引き返す 
 富士山は天候、体調の急変が起きやすい。
 特に体調は、高山病と言う予期せぬ事態が発生することがある。
 これは、どんなに体力がある人でも、他の山をたくさん歩いた人でも、起き得るもので、努力や根性ではどうにもならない。
 登ってみたが、何となく気が乗らないということもある。
 富士山との相性が悪いのかもしれない。
 そんな時も含め、嫌な事がひとつでもあれば、その先の登山を中止するに限る。
 富士宮口を除き、ほとんどが登山道と下山道が別になっているが、登山道を降りていけない法律はない。
 登っている人には迷惑だろうが、遠慮しながら登山道を下山することにしよう。


8.根性登山はしない
 登山とはとにかく耐えることだと思っていないだろうか。
 確かに最小限の忍耐は必要だが、たとえ富士登山とは言え、家の周りを散歩するのと同じくらいの負荷で登るのが理想だと、高尾評論は思う。
 本番の富士登山で、そのように歩けるよう、普段からまともな登り方、下り方ができるように努力することは大いに結構なことだ。
 登り下りの基礎ができていないのに、富士山に登るときになって初めてがむしゃらにがんばるのは、泥縄と言われても仕方ない。
 苦しいだけでなく、事故も誘発しやすいことは明白だ。
 その場は大きな事故なしに帰宅できたとしても、その後何日間も寝込んだり、足をひきずったりしていては、いい登山だったとは言えない。


9.まじめに登山する
 前に述べたことと矛盾するようだが、決してそうではない。
 登山と言う行為自体、スポーツの領域に入ることは異論ないだろう。
 家の周囲の散歩が練習、高尾登山が練習試合、富士登山は本番試合に相当する。
 球技でも格闘技でもレースでも、本番で多少冗談を言うくらいならともかく、絶えずへらへらしながら試合に臨んだら、相手に失礼だし、結局のところ、自分でも面白くなくなるだろう。

 富士山は、他の山と比べ、自由度の少ない登山になることを予め知っておいてほしい。
 登山道を少しでも外れると、落石を引き起こすので、登山道、下山道は厳格に決められており、休憩場所もかなり制限されている。
 その上、登山道の途中で不用意に止まれば渋滞を引き起こすし、強引に追い越しを掛ければ転倒も起きるだろう。
 シーズン中、富士登山をするということは、家畜のように場所とペースを管理されて移動せざるを得ないのだ。
 今後、この傾向はますます強くなるだろう。


10.それでも登り下りが苦手な人は、富士登山はしない
 それを言っちゃおしまいかとも思うが、事実だから言っておいたほうがいいだろう。
 山歩きは、数あるスポーツの中でも一番原始的かつ根底的なスポーツだ。
 特別に高齢とか、深刻な持病や障害のある人を除けば、山の登り方、下り方など、そんなに難しいものではない。
 富士山も一般コースを歩いている分には、難所と言うところが1箇所もない。

 それでも、登り方のペースがどうにも掴めなく、歩いている時間よりも休んでいる時間の方がはるかに多ければどうなるだろう。
 天気が良ければ、1合目ごとにある山小屋が、手が届くくらい近くに見える。
 だがいつまでたってもそこに着かないもどかしさは、その当人と同行者しか分からないだろう。

 下りもそうだ。
 急斜面と呼べるところは1箇所もなく、肩の力を抜いて、膝のクッションを使い、楽に下ればいいのだが、それができないと悲惨だ。
 何しろ、単調な道を標高差で千数百mを下るのだ。
 富士山の下りで恐怖症が発生し、カニさん歩きになってしまったら、そのカニさん歩きで1万数千歩を下らなくてはならない。
 特に下山道は、ほとんど山小屋も茶屋もなく、荒涼とした斜面が延々と続き、ほっとする場所がないのだ。


11.できれば、須走口から登る
 須走口5合目の標高は1970mだ。
 富士宮口や吉田口に比べると標高差で300〜400mほど余分に登ることになる。
 しかし、実際には5合目付近は比較的なだらかで、樹林帯を歩くため、思ったほどはきつくはないし、実質的な所要時間もそう変わらない。
 吉田口や富士宮口よりも空いているので、自分のペースで登れるし、登山道の負担は少ないはずだ。
 ただ、8合目で吉田口と合流し、そこから先は猛烈な混雑となる。


12.できれば、御殿場口に下る
 御殿場口5合目の標高は1440mで、さすがに登りには勧められない。
 しかし、下りでは富士山の大きさをたっぷり感じられるし、大砂走りを下る豪快さは格別だ。
 下りはここ専用の道なので、渋滞とはほぼ無縁だ。
 途中であまりにも長いと思った人は、途中で宝永山の麓を通って、富士宮口6合目に出る事ができる。
 このコースも宝永火口が見えて、なかなかいい。

 富士山頂を目指さない渋いコースとしては、富士宮口から登り、6合目でこの宝永火口を通り、御殿場口下山コースの大砂走りを5合目まで下る。
 ほとんどの人にとって、大混雑の富士山頂よりも、こちらを歩く方が、満足度が高いような気がする。


13.富士山だけが山じゃない
 これから何かと敷居が高くなる富士山にいつまでもしがみついているのもいかがなものか。
 富士山は日本にある山の中で、ずば抜けて大きい。
 お鉢巡りをしないのなら、富士山を歩く時間のすべてを、巨大な斜面の登り下りに費やしているに過ぎない。
 良く言えばスケールが大きい、悪く言えば大味、単調な山歩きだ。
 渋滞と極寒と高山病の中、それだけの山歩きに10時間以上を費やす必要があるかどうか、高尾評論は常に疑問を感じている。
「人生の記念に、冥途の土産に」
 と言われれば返す言葉はない。
 しかし、他の山域なら、10時間も歩けば富士山よりもずっと変化のある山歩きができることは確かだ。

 富士山を本当に楽しめるのは、快眠、快便ができる朝型の人で、登り、お鉢巡り、下りを入れて、余裕で日帰りできる人に限られるだろう。

 首都圏の人で、単に山を歩きたい初心者なら、ほとんどの人は高尾山で十分だ。
 尾根道、谷間の道、舗装路など、登山道はバラエティーに富み、展望もまあまあ、人がほとんど歩いていない道だってあるし、1日中歩いてもたどり着かないほどのロングコースもある。
 ただ、絶対的標高が低いので、夏の暑さだけはどうにもならない。

 楽をして高い山に登りたいのなら、乗鞍岳に行けばいい。

 富士山のような形の整った独立峰の火山へ登りたいのなら、浅間山を推薦する。
 浅間山は、電車の便は悪いが、車なら渋滞なしで都心から3時間以内で登山口まで着く。
 富士山麓の駐車場からシャトルバスに乗り換えて5合目に行くのと同じくらいだ。
 富士山と同じように知名度は抜群、遠くからもよく分かる山だ。
 途中からの景色は、富士山同様、何も遮るものはなく、抜群の展望を誇る。

 ただ、この浅間山、どういう訳か登山者が少ない。
 不思議な事だ。

 今、浅間山は火山活動が収まっている時期で、中央火口丘のすぐそばの前掛山まで登山が許可されている。
 時期限定の山なのだ。

 高尾評論のお勧めコースは、
 車坂峠→トーミの頭→黒斑山→蛇骨岳→J-バンド→賽の河原→前掛山→草すべり→トーミの頭→車坂峠
 の周回コースだ。
 前半の第2外輪山縦走路から見る浅間山本山は、三つ峠から富士山を望むような景色であり、後半の前掛山からは、富士山頂からの眺望に匹敵する風景が待っている。








posted by 高尾評論 at 20:50| 東京 ☀| Comment(0) | 富士山と高尾山 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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